News Lettter 在籍出向の留意点について
今回のトピック
在籍出向の留意点について
1. 在籍出向とは?
2. 在籍出向を命じるには労働者の同意が必要か
3. 労働基準法の適用
4. 安全配慮義務・労災保険の適用
5. 雇用保険・社会保険の適用
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1. 在籍出向とは?
在籍出向は、労働契約を締結している使用者(出向元)との間の労働契約を維持したままの状態で、他の使用者(出向先)とも労働契約を締結し、出向先の指揮命令下で就労する形態を言います。在籍出向は、出向元との契約を解除しない形であり、出向元・出向先双方との間に労働契約関係があります。これに対して、転籍出向は、出向先に行く際に、出向元との労働契約関係を終了させ、新たに出向先との間に労働契約関係を成立させ就労する形態を言います。また、在籍出向と労働者派遣とは、出向元(派遣元)との間で労働契約を締結しており、出向先(派遣先)で就労することは同じですが、在籍出向の場合は労働者と出向先は労働契約関係が成立しているのに対し、労働者派遣の場合は労働者と派遣先の間に労働契約関係は成立せず、指揮命令・労務提供関係が成立しているに過ぎません。
2. 在籍出向を命じるには労働者の同意が必要か
企業間の人事異動は企業内の人事異動のように使用者の裁量で行えるものではなく、在籍出向を命じるには、労働者の個別的な同意を得ることが原則ですが、労働者にとって不利にならない就業規則等の規程によって命じることは可能と解されます。具体的には、出向先での賃金・労働条件、出向の期間、復帰の仕方などが就業規則や労働協約等によって労働者の利益に配慮して整備されている必要があります。労働者に出向を命じることができる場合であっても、出向の必要性、対象労働者の選定に関する事情等に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合は、その命令は無効となります(労働契約法第14条)。出向を行う際は、その必要性や出向期間中の労働条件等ついて、労使の間でよく話し合いを行い、労働者の個別的な同意を得ていくことが望まれます。
3. 労働基準法の適用
労働基準法の順守義務がある使用者に、出向元・出向先のどちらが適用を受けることになるかどうかは、すべて一律に決定することはできず、出向の実態や適用される具体的条項に着目して個別的に適用関係が定められることになります。通常は、労務の提供を前提とする規程(労働時間、休憩、休日、休暇等)については出向先が、それ以外の規程(賃金等)については出向元が、それぞれ労働基準法の使用者に該当し、適用を受けることになります。
4. 安全配慮義務・労災保険の適用
在籍出向の場合における出向者の安全配慮義務については、具体的な業務環境を整備できるのは出向先である以上、出向先が負うのが原則と言えます。基本的には出向先が安全配慮義務を負うことになりますが、出向元が雇用主という地位にある以上、安全配慮義務を常に免れるというわけではありません。裁判例においても、具体的事情によっては、予見可能性および回避可能性が肯定できる範囲で出向元も安全配慮義務を負うとしています。また、労災保険の適用に関しては、出向者が出向先の組織に組み入れられ、出向先の指揮命令下を受けて就労しているのであれば、出向先において労災保険の適用を受けることになります。保険料の納付は出向先において行うことになり、年度途中に出向してきた労働者の保険料は、確定保険料の申告の際に支払うのが一般的です。
5. 雇用保険・社会保険の適用
雇用保険法上では、労働者が生計を維持するのに主たる賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者として取り扱うこととされていますので、原則は、生計維持の主たる賃金を支払う企業において、雇用保険の適用を受けることになります。賃金の支給を出向元・出向先それぞれ負担していると、雇用保険では賃金の合算処理を行わないため、労働者が失業した場合に受け取ることができる基本手当の金額が少なくなる場合があります。したがって、賃金支払関係は、一方の企業に集約して支給することが望ましいです。社会保険の適用については、出向元が賃金を全額支給していれば、健康保険および厚生年金保険の適用関係は維持できることになります。出向元・出向先双方が支給する場合には、出向元企業を主たる事業とする二以上事業所勤務届の提出が必要になります。
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