BOOK REVIEW

人事労務管理

人事評価の法律実務

編著者
第一東京弁護士会 労働法制委員会

労働開発研究会

人事制度の構築をする際に、これって法的にOKなの?と不安になることがあります。例えば信賞必罰の制度を作ってほしい!というオーダーがあった場合に、考課結果に応じて給与が半額になる制度が法的リスクはないのか(実際には半額はリスク大)、ではどれくらいまでOKなのか、給与を下げなくても降格した結果給与が下がるのはOK?等々、実は人事制度は最適な人事制度だけを目指して構築するのでは足りず、法的なリスクまで検討したうえで制度構築すべきです。
そのような人事評価にまつわる法的な考え方について、安西先生、木下先生はじめ労働法の有名どころの弁護士の方々が執筆されていて、頼りになる1冊です。
労働判例に学ぶトラック運送業の労務管理

著者 岡﨑 隆彦

産労総合研究所出版部経営書院

とにかく情報量の多い書籍です。運送関係の判例、その他の論点と解説についての情報が充実しています。この本1冊で情報収集を終えられるのではないかと思うほどです。この著者の方には運送業以外の業界についても、ぜひシリーズで出してください!とお願いしたいです。
「人事管理論」再考

著者 木谷 宏

生産性出版

ここ数年読んだ人事制度関係の本のなかで最も読み応えがあった書籍です。
「これをやれば絶対うまくいきます(これをやっていないからうまくいかないんです)」というような、人事制度にはあり得ない(そんな魔法あるわけない)内容の机上の空論的ノウハウ本が多いなか、実際に筆者が関与した企業の人事制度の課題に真正面から向き合い、冷静に分析&反省、改善を試みるという、実際の企業の現場のリアルが、学者の視点で整理されているのが新鮮です。
机上の空論的なコンサルティングに騙されたくない方に特におすすめです。また、現在人事労務管理の現場にいる方にとっては、「そうそう!!」を連発しながら読み進めるうちに、現在抱えている問題が理論的に整理できると思います。
世界最高のチーム

グーグル流
「最小の人数」で「最大の成果」を生み出す方法

著者 ピョートル・フェリクス・グジバチ

朝日新聞出版

昭和的人事労務管理が、次世代に否定され通用しない変化の時代において、ではどんな労務管理をすべきなのか分からないという管理職の方におすすめです。
この書籍では、ヒエラルキーにもとづく組織ではなく、心理的安全性をベースにしたチームをどう作っていくのかについて書かれています。
根性論や理不尽なしごきがハラスメントとして法違反になる現代において、きっと若者が求めている組織はこんな感じなんだろうし、そういう若者のニーズがある以上、今後日本企業もこんな雰囲気の会社が増えてくる気がします。
心理的安全性のつくりかた

著者 石井 遼介

日本能率協会マネジメントセンター

心理的安全性はヌルい組織をつくるため?という誤解を明確に解いてくれる本です。

組織の中で、「良かれ」と思って何かをしたり言った人が、損をしたり、嫌な思いをすることで何もせず、何も言わなくなる…、こんな経験をしたことがない人はいないのではないでしょうか?それが続くと組織の成長が失われるのは言うまでもありません。
どうやってチームをまとめていけばいいのか分からない、そんな悩める管理職、経営者、人事担当者にお勧めです。

 

労働基準監督

人事労務・安全健康管理の実務

労働新聞社

労働基準監督官(監督署から調査があったときに担当になる方です)の視点で、実務を法令に沿って詳細に解説しています。
企業が調査を受けるときに、監督官が何をどのような視点で見ているのか知るために最適な書籍です。ちなみに本書によると… 監督官は職人であり、自分の調査の後、他の監督官が調査した時に多くの法違反が発見された場合、面目を失い、屈辱を感じる…とのことです。
監督官も人であり、組織の一員なので当然かもしれません。
ただ、調査を受ける側としては、前回の調査時には指摘を受けなかった点について指摘を受ける(よくあることです…)のは、署内で競い合っている影響もあるのかと思うと、調査対応にさらに慎重さが必要だと改めて感じます。
 

元労働基準監督官がつくる就業規則・所規定用例集

労働調査会

 

労働基準監督官の視点で就業規則が解説されている点が、他の書籍との大きな相違点です。監督官が就業規則をどんなふうに見ているのかよく分かります。就業規則作成・修正時だけでなく、監督署調査対策としての利用価値も大きいと思います。

 

その他

あんまり業務には関係ないですが、個人に面白かった書籍のご紹介

ルワンダ中央銀行総裁日記

著者 服部 正也

中公新書  新書

現代の日本で通貨政策や経済政策の話を聞いても、もう正直複雑すぎて良く分からないんですが、1次産業が主だった当時のルワンダの話だと、シンプルなため国家運営ってこんな風にするんだと何とか理解することができました。
ただひたすら職務に忠実に奮闘するまじめな服部さんと、ルワンダで起きるとんでもない問題とのギャップが面白すぎです。
不格好経営―チームDeNAの挑戦

著者 南場 智子

日本経済新聞出版

 

元マッキンゼーコンサルタントの南場社長が「いうのとやるのは大違いってことを知らなかった」と悪戦苦闘しながら、ベンチャー企業を成長させる過程がめちゃくちゃおもしろいです。
もし私がこの企業の顧問社労士だったら、ギリギリの経営が続く中で私はどんなサポートができるんだろうか、きっと「労働基準法で1日8時間労働です…」とか言っても、生きるか死ぬかの他の経営課題に比べて優先度低いかも、などと勝手に想像したり。でも、こんな企業に関わっていっぱい一緒に奮闘できたら、大変だろうけど社労士としてやりがいがあって楽しそうだなと思ってしまいます。