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News Lettter 職場でのハラスメントをめぐる注目の裁判例について

今回のトピック

職場でのハラスメントをめぐる注目の裁判例について

1. ハラスメント対策の必要性
2. パワハラ判例:殴打、悪質な暴言などのパワハラで解雇が認定された事案
3. セクハラ判例:しつこく便座の上げ下げについて言及しセクハラ認定された事案
4. マタハラ判例:妊娠中業務軽減のために降格したが、育休復帰後も戻さず違法とされた事案
5. 刑法改正による、セクハラの刑罰化

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1. ハラスメント対策の必要性

職場におけるハラスメントは、職場において労働者の能力発揮を妨げるばかりでなく、企業の社会的評価を著しく低下させることにもなりかねない雇用管理上の問題です。また、ハラスメントが発生した場合、使用者は、安全配慮義務違反による債務不履行責任、不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。ハラスメントをめぐるトラブルや訴訟は増加傾向にあり、その内容も多岐にわたっています。職場での対策を検討する際には、ハラスメントとなる行動が具体的にどのような内容なのかを知ることは重要で、実際に裁判で争われた事例からヒントを得ることも有効な方法の1つです。

2. パワハラ判例: 殴打、悪質な暴言などのパワハラで解雇が認定された事案

【事件の概要】本件は、Y市の消防職員であったXが、Y市消防長から、パワハラ行為を理由とする分限免職処分(民間企業でいう解雇)を受けたことを不服として、Y市を相手に、分限免職処分の取消を求めた事案です。Xは2008~17年にかけて、部下など約30名に対し、顔面を手拳で殴打する、約2kgの重りを放り投げて頭で受け止めさせるなどの暴行、「殺すぞ」「殴り殺してやる」などの暴言を約80件繰り返していました。
【判決】一審・二審では、相当悪質なパワハラ行為だと指摘した一方、部下に厳しく接する消防の独特な職場環境が背景にあったなどとして、免職は重すぎると判断し、処分を取り消しましたが、最高裁判所は、パワハラ行為は5年以上でおよそ80件に上り、対象となった職員は、消防職員全体の半数近くを占め、内容は暴行・暴言など多岐にわたると指摘しました。そのうえで、消防では、職員間で緊密な意思疎通を図ることが住民の安全を確保するために重要で、元消防士を配置した状態で組織を適正に運営することは困難だとして、市の処分は妥当だったと判断し、一審・二審とは逆に、Xの訴えを退けました。

…長門市・長門消防局事件(最高裁令和4年9月13日判決)

3. セクハラ判例: しつこく便座の上げ下げについて言及しセクハラ認定された事案

【事件の概要】本件は、高速道路の料金所を運営するY社の従業員Xが、自身に対するセクハラを原因とする懲戒処分が無効であると争った事案です。主任の地位にあったXが、ある女性従業員に対し、男女共用トイレを使用した後は便座を上げる様に複数回にわたり発言を繰り返し、そのことについて女性従業員は不快であると会社に訴えました。そこで、Y社は、Xの当該発言が女性従業員に対し精神的苦痛を与えるものであり、Y社就業規則のセクハラ規程に違反するものであるとして、Xを戒告処分としました。
【判決】裁判所は、Xが女性従業員に対して、トイレの使用方法について指図をするという行為が、
女性従業員にとって不快に感じる言動であることは言うまでもなく、その発言が複数回にわたっていたことをも考慮すれば、Xの言動は、女性従業員に対するハラスメントに当たると言わざるを得ないとし、懲戒処分を有効としました。

…阪神高速トール事件(大阪地裁令和3年7月16日判決)

4. マタハラ判例:妊娠中業務軽減のために降格したが、育休復帰後も戻さず違法とされた事案

【事件の概要】本件は、Y社の従業員Xが、妊娠中の軽易業務への転換請求で別部署に異動した際、副主任を免ぜられ、その後の産休・育休を経て、希望により転換前の部署に復職しても、既に後任者がいたことから、副主任に戻されなかったため、この降格措置は男女雇用機会均等法に違反し無効だとして、副主任手当の支払い等を求めた事案です。一審と二審は、Xが降格に同意していたことなどを理由に降格は適法と判断し、Xの請求を棄却したため、最高裁で争われました。
【判決】最高裁判所は、Xの敗訴判決を破棄し、二審の広島高裁に審理を差し戻しました。判決は、明確な同意や特段の事情がない限り、妊娠を理由とした降格は原則違法との基準を示したうえで、女性が降格を承諾していたとはいえないと指摘し、降格を正当化する業務上の必要性があったか否かを高裁で改めて検討するよう求めています。この裁判は、「マタハラ訴訟」と言われ、大きな注目を集めました。

…広島中央保健生活協同組合事件(最高裁平成26年10月23日判決)

5. 刑法改正による、セクハラの刑罰化

2023年7月の刑法改正により、強制性交等罪と準強制性交等罪の二つの犯罪が統合され、新たに不同意性交等罪が創設されました。また、強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪も同様に、不同意わいせつ罪として統合されました。現行の強制性交等罪が成立するには、暴行・脅迫要件が必要でしたが、新たに創設された不同意性交等罪が成立する要件は「同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態」であることとなり、成立要件が幅広くなっています。これにより、経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力を利用したセクハラに対しても、刑事罰に該当する可能性が高まりました。

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