News Lettter 労使トラブルを未然に防ぐ!正しく知りたい就業規則の効力について
今回のトピック
労使トラブルを未然に防ぐ!
正しく知りたい就業規則の効力について
1. そもそも就業規則とは?
2. 労働基準法ではどのように定められている?
3. 就業規則による労働条件の不利益変更と労働契約法との関係は?
4. 裁判でどう判断された?不利益変更の“合理性”を事例で学ぶ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1. そもそも就業規則とは?
就業規則とは、労働者が職場で守るべきルールや、
労働条件(勤務時間や賃金など)について使用者が
まとめた規則のことです。就業規則は、使用者側から
みれば、多数の労働者との労働契約を集合的に処理する
ものとして、一律に労働条件を定めることや職場規律の
維持を図る目的で作られます。就業規則の存在やその意義は、
主に労働基準法および労働契約法において規律されています。
2. 労働基準法ではどのように定められている?
労働基準法では、常時10人以上の労働者を雇用する使用者に
対して、就業規則の作成と労働基準監督署への届出を義務づけ
ています。就業規則の作成または変更については、事業場の
労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合、
労働組合が存在しない場合には労働者の過半数代表者から意見を
聴取する必要があります。意見聴取とは、「諮問をする」という
意味とされており、同意を得ることまでは求められておらず、
仮に反対意見があったとしても、その意見書を添付して
労働基準監督署に届出を行うことで、手続上の問題は生じません。
ただし、民事上の効力については、これとは別に問題となることが
あります。労働契約法では、労働契約は労使の合意により成立する
とされており、その内容である労働条件も原則として合意に基づいて
決定されるものと定められています。したがって、労使間において、
労働契約の内容は就業規則によることを合意したといえる場合は、
就業規則の内容が労働契約の内容となるといえます。特に、
その就業規則の内容が従業員にとって不利益な変更を含む場合には、
後述する、いわゆる就業規則の不利益変更の問題が生じるため、
慎重な対応が求められます。また、就業規則については、
使用者に周知義務が課せられており、その義務を怠る場合には罰則の
対象となります。周知とは、労働者が知ろうと思えばいつでも就業規則
の存在や内容を知ることができる状況にしておくことをいうものであり、
その周知方法は、労働基準法施行規則によって以下の通りに定めら
れています。
●常時各作業場の見やすい場所へ提示し、または備え付けること
●書面を労働者に交付すること
●パソコンなどで確認できるようにすること
3. 就業規則による労働条件の不利益変更と労働契約法との関係は?
労働契約法において、使用者は、労働者と合意することなく、
就業規則の内容を労働者の不利益につながるものに変更すること
を禁じています。しかし、労働契約法10条に挙げるケースに該当
する場合は、例外として労働者の合意なく就業規則の不利益変更
を認めています。具体的には、変更後の就業規則を周知すること
その変更内容が合理的であることが必要です。
合理性については、
① 労働者の受ける不利益の程度(賃金・退職金の変更状況、
特定の対象者への狙い撃ちとなっていないかなど)
② 労働条件の変更の必要性(法令の改正状況、経営の危機
的状況、社会変化の状況など)
③ 変更後の就業規則の内容の相当性(代替措置の有無、
経過措置の有無など)
④ 労働組合等との交渉の状況その他の事情(労働組合・
労働者との協議の有無・内容・回数、意見聴取の内容など)
を考慮して判断されることになっています。一般的に、
福利厚生や休職制度などの不利益変更よりも、労働時間
や休日、休暇、昇給などにかかる不利益変更の方が労働者
の受ける不利益の程度が大きくなるため、判断もより厳しく
なります。さらに賃金や退職金の減額については、よほどの
事情がない限り、労働契約法10条でいうところの「合理的で
ある」とは認められません。
4. 裁判でどう判断された?不利益変更の“合理性”を事例で学ぶ
●合理性を肯定した裁判例(羽後銀行事件 最高裁判所平成12年9月12日判決)
地方銀行が週休2日制の導入に伴い、1日の労働時間を平日10分、
特定日には60分延長したことが争点となった事案です。裁判所は、
週休2日制実施の必要性が高く、労働時間延長による不利益が軽微
であり、休日増加という利益もあったことから、就業規則による
不利益変更の合理性を肯定しました。本判決は、全体のバランスや
代替的利益の有無が合理性判断に重要であることを示しています。
●合理性を否定した裁判例(みちのく銀行事件 最高裁判所平成12年9月7日判決)
経営の低迷が続く地方銀行が、55歳以上の管理職を専任職に変更し、
業績給の削減や手当廃止により賃金が大幅に減額された事案です。
裁判所は、経営上の必要性は認めつつも、高齢の特定職員にのみ
大きな不利益を強いるのは不合理と判断し、就業規則による不利
益変更の合理性を否定しました。本判決は、変更の必要性があっても
不利益の大きさや対象者の限定によっては合理性が認められないこと
を示しています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※ 上記の情報は令和7年8月現在のものであり、今後変更する可能性が
ありますので、
ご利用前には当方または関係機関にご確認をお願いいたします。
なお、掲載情報については分かりやすくお伝えするため一部情報を省略
しています。
また、弊事務所では掲載情報に基づくお客様の行動に対して一切の責任を
負うことができませんが何卒ご了承のほどお願いいたします