Column⼈事・給与制度

最低賃金50円増額は、月給換算すれば8000円超の増額

2024年度、全国の最低賃金が平均50円引き上げられることになりました。
過去最大の上げ幅となります。
例えば月に160時間(8時間/日、20日/月)勤務だと、月給換算で8000円の増額となります。

 

 1.最低賃金の増額は、正社員にも大きな影響

 

時給で支払うパートやアルバイトがいないし、正社員ばかりだから、
最低賃金なんて関係ないと考えている方がたまにいらっしゃいます。
残念ながらそれは間違った認識です。新規採用時の社員の給与額や、
正社員の賃金テーブルの最低支給額が、最低賃金を下回っていないでしょうか? ※1
下回っていたらその額では新入社員を雇い入れることはできません。

そしてもし最低賃金を上回っていたとしても、その額が最低賃金に近ければ近いほど、
採用時の競争力が低くなり、なかなか採用できないといった事態に陥ります。

ちなみに下記の通り、
大阪の最低賃金は,令和4年以降の直近3年間の最低賃金を月給換算(月の所定労働時間を160時間で算定)すると、
なんと19,520円も上昇しています。

令和431円 4,960

令和541円 6,560

令和650円 8,000

3年間の総額19,520

※1 次の手当は最低賃金に含みませんので、注意が必要です。
精・皆勤手当、家族手当、通勤手当、
②1か月を超える期間ごとに支払われる手当(ボーナス等)
臨時に支払われる手当(結婚手当等)、
④深夜労働、休日労働、時間外労働に対する賃金

 

 2.玉突きで2年目以降の社員の賃金額も見直しに。

 

入社したばかりの社員と2年目、3年目の社員が同じ賃金額というわけにはいかないといった考えで
実質、年功序列型賃金制度を運用されている企業がまだまだ多くあります。
となると毎年少額でも昇給し、経験や能力の差を賃金額の差で処遇することになります。
しかしながら、新入社員の給与額が最低賃金に近い場合、
既に在籍している2年目以降の社員の賃金にも、最低賃金の上昇額に相当する昇給を行わないと、
毎年、新入社員の賃金額との差が縮んだり、下手をすると並んだり超えたりし、歪な賃金差になってしまいます。

これらを是正するには、
今後の最低賃金の増額を見据えて、賃金テーブル全体の見直しをする必要があります。
ちなみに政府は将来的に最低賃金を1500円にすることが目標のようなので、
今後も最低賃金が上昇することを前提にせざるを得ない状況です。賃金原資が豊富にあり、
数年分の最低賃金の増額分をふまえて賃金全体の見直し(ベースアップ)できれば良いのですが、
そこまでの余裕がない場合は、組織体制の見直しも含めた検討が必要です。

 

 3.中小企業が定期昇給を維持することが難しい理由

 

毎年同じ仕事をして、同じ利益しか生んでいないなら、
毎年昇給しつづけることが不可能だということは誰もが理解できるところです。
ではなぜ、大企業は定期昇給を行うことができるのでしょうか?
それは毎年、新卒採用と定年退職があるゆえに、
年齢、勤続年数、賃金等級等で組織のバランスが取れていることが一因です。

例えば毎年60万円の10人が定年退職する代わりに(-600万円)、
20万円の新卒社員を30名採用すれば(+600万円)、これでプラスマイナス0円です。

入社後社員は定年までに少しずつ60万円に到達するよう昇給させます。
最終的に60万円になるのは絞り込まれて3分の1です。
1段ごとに賃金額が増えるエスカレーターをイメージしてもらえると分かりやすいかもしれません。
このようなピラミッド

型の組織体制と賃金の仕組みにできれば、総額人件費は一定の範囲に維持できます。

しかしながら新卒採用よりも中途採用がメインとなる中小企業では、
年齢構成、勤続年数、賃金額にも偏りが起きることが避けられません。
よって、賃金制度を設計するなら、単純な定期昇給制度ではなく、
等級に上限額を設定する、定期昇給とジョブ型賃金の組合せとする、
などの工夫が必須となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4.最低賃金ギリギリの賃金水準なら昇給月を4月ではなく10月にすることも選択肢の1つ

 

近年、せっかく4月に人事考課を行って昇給額を決めたにも関わらず、
10月に最低賃金をクリアさせるために、 再度昇給を行わなければならないといった事態が発生しています。
最低賃金の上昇幅を考慮したうえで昇給額が決められるように、
10
月を昇給月にすることも選択肢の1つです。
今年も最低賃金の予想額が7月末に報道されたので、10月昇給なら2か月程度の準備期間を取ることができました。